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「蓮見律子の推理交響楽 比翼のバルカローレ」
杉井光著
講談社タイガ
2017年発行

講談社タイガの積読本を今になって読んだのですが、
素晴らしい作品なので、もっと早く読めばよかった。
作者の杉井光さんは初めて知りましたが、
ラノベを中心に漫画原作者としても活躍している方のようです。

のっけから、「吉松隆と舘野泉に」と献辞が入ってます。
左手だけしか使えないピアニストのために曲を書いた作曲家と、
左手のピアニスト。
そう、本書はクラシック音楽の世界を舞台にしたミステリです。
まあ本書のキーワードのひとつは実は右手のためのピアノ曲なわけですが。

葉山理久央は大学生だけど留年してブロガーをやっています。
そんな彼に目をつけたのが天才作曲家の蓮見律子。
彼女は彼の炎上して消した記事を読んでいて、
その文章に含まれた詩情を買っていたのです。
彼女の曲に作詞するよう頼まれますが、
なにせ素人だからそう簡単には相手を満足させるものはできず、
プロデューサーやその歌を歌う予定の俳優にせっつかれながら、
律子の使いパシリしたり部屋に入り浸って彼女の世話をする日々。
そんなとき、作詞の勉強になるかと潜り込んだ大学の講義で、
本城美紗と知り合います。
彼女はピアニストとして活躍しようという矢先に事故で左手が使えなくなり、
ピアノの道を諦めたのでした。
やがて彼女の弟、湊人とも知り合うことになります。
辛辣な物言いをする彼は有名なピアニストですが、
姉弟の間には確執があるようです。
そして事件が起こります。
姉弟の家が火事で焼け、防音室で湊人の死体が発見されたのです。
彼の死体には不審な点があり、そのとき在宅していたのが美紗だけだったので、
彼女が疑われることとなります。
警察のお偉方にパイプがあり、これまでも幾度となく捜査に協力してきた律子は、
理久央をワトソン役に事件の謎を解くため、乗り出すのでした。

事件が起こるまで物語の半分ほどを費やします。
でも良いのです。
優れた交響楽は第二楽章までをとっても傑作で楽しませてくれるのです。
曲がひらめくと床一面に、憑かれたように音符を書きまくる蓮見律子
(ガリレオかよ!もっともどこにでも方程式を書くのはテレビドラマのオリジナルで、
東野圭吾氏の原作にはそのような描写はないらしいけど。)、
辛辣で我が儘な天才ピアニスト、聴講生が二人だけでも講義を続ける音韻論の教授、
といった個性的な人物たちの物語を読んでるだけでも凄くエキサイティング。
さらに登場人物表の名前がやたら少ない。
でも良いのです。
これはフウダニットではなく、むしろホワイダニットだから。
ついでにタイトルがネタバレ気味でもありますけどね。
まあ良いでしょう。

ヒロインである蓮見律子の強烈なキャラクターも魅力ですが、
全編を彩るクラシックネタは好きな向きにはたまらないでしょう。
蓮見律子の発言で興味深いのが、いまや複製技術が完璧だから、
多様性を考慮してもピアニストなんてそんなに人数いらない、というもの。
これを読んで、大昔に兼常清佐氏が言い出した、
「ピアニスト無用論」を思い起こしました。



猫がピアノの上を歩いても、ピアニストが弾いても同じ音が出るという論旨で、
極論ではありますが、兼常氏は当時の大ピアニストの井口基成氏を使い、
実験まで行いました。



井口氏に良いタッチ、悪いタッチと弾かせ、
オシログラフに記録して振動数を調べたら、大した違いがなかったそうです(笑。

話ずれましたが、蓮見律子のもうひとつ気になった発言に、
会場の状態に影響されるライヴより、完璧な録音の方が良いというのがあります。
いまや高性能なオーディオ装置でどのようにも再現できると。
これも極論ではありますが、連想したのが、かのグレン・グールドの
「コンサート・ドロップアウト宣言」であります。
不確定な演奏会よりも冷静に演奏できて完璧な録音の方が良いとし、
スタジオに引きこもってしまったアレです。
まあこんな風に言いたい放題やりたい放題な天才なので、
理久央くんは苦労するわけです(笑

物語はラヴェルの左手のコンチェルトに代表される、
左手用のピアノ曲はいくつもあるのに、
なぜ右手用のは一般的な有名曲としては存在しないのかという話にも展開し、
事件の解明とともに感動的に幕を閉じます。

作曲家とブロガーというコンビも面白いし、
主人公の理久央くんが一般的なミステリの標準的な人間より、
ドライに見える点もなかなか興味深いです。
文章も上手く、素晴らしいストーリーテリングに、
読み終わった直後に素晴らしい交響楽を聴いた時のような
余韻と感動が広がってきて、思わず心のなかで「ブラボー!」と叫びました。

ところで、わたしも将来防音室のオーディオルームが欲しいと夢見ているのですが、
本書で火事における防音室の危険を改めて思い知らされて、
どーしよーかなーと、ちょっとだけ不安になりました。
まあ、どうせ今のところ夢ですがね。
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07/06|Book(ミステリ)コメント(2)トラックバック(0)TOP↑
この記事にコメント
読みました(^^)
いつもなら「Kindle版」を買うのですが、蓮見律子の挿絵を期待して文庫版を購入しました。が、挿絵はゼロでした。残念。 葉山理久央と本城美紗の関係がもう少し進展するのを期待していたのですが(^^)またしても残念。 しかし、何と言っても蓮見律子と葉山理久央の二人のやりとりが最高に面白かったです。
From: akifuyu102 * 2018/07/14 15:47 * URL * [Edit] *  top↑
>akifuyu102さん
おお、お読みになりましたか!
講談社タイガは挿絵ないんですよねー。
一応ラノベ枠には入っているようなんですけどねー。
たしかに残念です。
ふたりの関係はわたしももう少しすすんでほしかったところですが、そこらへん、ぜひとも続編を書いていただきたいところです。
それにしても暑いですね。
熱中症等お気をつけくださいませ。
From: 暗ヲ * 2018/07/14 16:19 * URL * [Edit] *  top↑
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